next up previous
Next: もくじ Up: Computational Previous: Computational
VISIT MY BOOKSHELF
http://www.iitaka.org/


まえがき

「数値流体力学」という学問がある。気体や液体を支配する 基本方程式を計算機で解いて、流体の複雑な時間発展をシミュレート、 視覚化する方法である。自動車や飛行機のまわりの空気の流れを、風洞で 実験することなく、 シミュレーションで調べることができるのだ。

「(数値)量子ダイナミクス」では、 同じことをミクロの世界で行う。流体の基本方程式の 代わりに時間に依存したシュレーディンガー方程式を計算機で解くのだ。 そうすれば、 ミクロな世界での粒子の運動をシミュレートできる。 量子ダイナミクスは 計算機の性能の向上とともにだんだん盛んになってきて、 1991年には Computer Physics Communications 誌の63巻が、 時間に依存したシュレーディンガー方程式の特集号を組むに至った。

「量子力学」ではなく「量子ダイナミクス」と呼ぶのには 理由がある。従来の量子力学の研究は、エネルギーの立場から 現象を解析してきた。つまり、 時間に依存しないシュレーディンガー方程式を解いて、 ハミルトニアンのエネルギー固有値と固有状態 (定常状態)を求めることを目的としてきた。 これに対して、量子ダイナミクスでは時間発展の立場を重視する。 本書では、 時間に依存するシュレーディンガー方程式を解いて、 非定常状態の波動関数や物理量が時間とともにどう変化するか、 量子の世界のダイナミックな動きを目で見て感じることを目標とした。 この二つの立場が互いに等価であることは量子力学の基本原理が保証しているが、 時間発展によるアプローチの方が直観的なことは疑いない。

本書には二つの使い方がある。第一の使い方は、コンピュータはある程度使えるが 量子力学はちょっとという人のための、量子力学の入門書である。 1章では、 読者自身がパソコン等を使って量子の世界の数値実験ができるよう、 ポイントを絞って量子ダイナミクスを解説した。 2章、3章、終章では、いろいろな状況での波束の運動を示した。 視覚的なアプローチによって、 より多くの人々に量子力学に親しんでいただければ幸いである。 もっと深く量子力学を知りたいと思われた方は、1章の参考文献に挙げた教科書を 参考にしていただきたい。 第二の使い方は、 従来の量子力学に習熟している研究者が「量子ダイナミクス」を 自分の専門分野で活用するための入門書である。 本書には、「量子ダイナミクス」の基本的なことが全て書かれている。

また、研究の最前線で「量子ダイナミクス」がどう使われているか解るように、 3章、終章ではいろいろな分野への応用例を挙げた。

読者が本書を読むのに必要とする知識は、 複素数と行列の基本演算、二次方程式の解法、 および FORTRAN の基本文法である。

編集委員のお一人である大槻義彦先生には、本書の執筆を勧めていただきました。 また、丸善出版事業部の方々、特に佐久間弘子氏には出版にあたって 大変お世話になりました。心からお礼を申し上げます。

1994年5月

飯高 敏晃


Iitaka Toshiaki
1996年10月20日 19時22分32秒